「あーあ、行ってしもうた。大丈夫かな、あの二人・・・」

少しずつ小さくなっていくほたると辰伶の背中を、見えなくなるまで心配そうに眺めていた紅虎がポツリと呟いた。

「まぁ大丈夫なんじゃねぇの?あいつらが勝手に騒いでるだけだろ」

紅虎のそんな声を漏らさず聞いていたサスケが、後ろで騒いでいる者たちを指して何気なく答える。

「・・・って意味分かって言ってんのかいっ」

「は?何の話だよ?」

「やっぱり分かってへん・・・」

サスケの軽い口調に紅虎はがっくりと肩を落とす。


「なーんか、怪しいよね。あの二人ってやっぱり。」

突如、二人の間からスッと幸村が現れる。

「幸村・・・」

「うわっ!?ゆ、幸村はん!?」

幸村の突然の登場に、慣れているサスケは呆れた口調で、

全く慣れていない紅虎は驚きを含んだ声で、それぞれ幸村の名前を呼ぶ。

当の幸村はヤッホーとこの場に似合うようで似合わない笑顔と口調で手を振っている。

この至近距離で振る必要があるのかどうかは皆無だが・・・。

「もう・・・驚かさんといてなぁ。」

「あはは〜ごめんごめん。」

対して悪く思っていないような謝り方ではあるが、この際気にしてられない。

「・・・で、何しに来たんだよ。あの二人がどうかたのか?」

「ん〜?もしかするとそういう関係なのかなぁってね。」

幸村は尋ねてくる猫目にウインク付きで答える。

「そういう関係・・・?」

「そう。大人な関係ってことだよ。」

「ゆっ幸村はん・・・」

そんなわざわざ教えなくても・・・と紅虎は言うが、

幸村は大丈夫、サスケももう子供じゃないんだから。と目配せする。

「・・・・・・そりゃ、二人ともあの歳じゃ子供じゃないよな・・・」

幸村の言葉をもんもんと考えていたサスケが、まだ納得いかないといった感じで呟く。

全く分かってないサスケに紅虎は安心したら良いのか、呆れたら良いのか分からなくなる。

「サスケもまだまだ子供ってことかな?」

「人をいつまでも子供扱いしてんじゃねぇよ。」

「僕にとったらサスケはまだ子供だよ?エヘ、抱き着いちゃおうっとvv」

バッと両の腕を広げて抱き着こうとする幸村を、サスケは間一髪のところで避ける。

「うわっ!?幸村何やってんだよ。お前ももういい歳なんだからいい加減オレに抱き着こうとすんの止めろよな。」

「え〜。だってサスケ可愛いんだもん。」

「そんなの理由になるかっ」

子供のような幸村にサスケはぴしゃりと言い放つ。


いつものような、それでいてどこか違う雰囲気の幸村とサスケを何となく眺めていた紅虎がフッと空を見上げた。

そうすると、3年前にはなかった桜の花が嫌でも目に飛び込んでくる。


「そう言えば、わいら3年前ここでごっつい闘いしとってんなぁ・・・なんや嘘みたいや・・・」

誰にともなく、思ったことがスッと口から零れた。

「・・・・・・でも、それがあったからこそ今があるんじゃねぇの?」

いつの間にか横に来て自分の呟きに答えていたサスケに、紅虎は少し驚いたがすぐにその口元に笑みを浮かべる。

「・・・そうかもしれへんな。わい、狂はんやゆやはんや皆に出会えて良かったって心のそこから思ってるで。

・・・勿論、サスケともな。」

「なっ何だよいきなり!」

真剣な声と顔一面に広がる屈託のない笑顔で、普段紅虎からはなかなか呼ばれない名前で呼ばれて、

少し動揺したサスケはいきなりのことに咄嗟に対応出来なかった。

「ん?別に。ただ言ってみたくなっただけや。嬉しかったかいな?」

ニコニコと半分からかい口調で聞いてくる紅虎からバッと視線を外す。

「・・・んな訳ねぇだろ!吃驚させんなっ」

「そんな訳ない?」

いつもなら“あーそうでっか”とでも言って軽く流す紅虎だが、何故か今回は少し傷ついた顔をする。

「・・・・・・」


そんな顔すんなよなっ!


これが幸村なら適当にあしらえるが、紅虎には余り裏表がない。

本心からの言葉だと分かっているから尚更性質が悪いのだ。自分が悪い訳ではないのだが、何故か居心地が悪い。

「・・・べ、別に嫌じゃ・・・なかったけどさ・・・」

「ホンマかっ!?」

ボソッと言うと、途端に紅虎の顔が明るくなる。

「まぁな・・・」

「そうか〜。そうやろな。うん」

「は・・・?」

そうかと思えばすぐにいつもの顔と口調に戻った紅虎が、誇らしげに頷いている。

何がどうなっているのか理解出来ないサスケは、頭に疑問詞を沢山浮かべる。

「あれ?今の演技やってんで?ジャリ、気付かんかった?もしかしてわい才能ある?」

「・・・・・・」

「あれ、どうしたんや?ジャリ〜?」

急に黙ったサスケを不思議に思って、紅虎はサスケの顔の前で手を振ってみる。

「ジャリ?」

「・・・っふざけてんじゃねぇぞ!!このボンクラが――っ!」

顔を上げたサスケは問答無用で刀を紅虎に向かって振り下ろす。

「おわぁ――!?ちょ、待ってやサスケっ。軽い冗談やんっ」

「うるせぇ!避けるなっ!炎雷っ!」

「避けるなって無・・・ギャ――――っ!!」

逃回っていた紅虎に止めと言わんばかりにサスケが必殺技をかます。

技が直撃した紅虎の叫びは呆気なく空に消える。


実はアレ、本心からの言葉やったんやけど・・・

なんや急に恥かしくなって誤魔化してみたけど、サスケは気付いてへんみたいやな。良かった良かった。


「ふんっ。馬鹿トラが・・・それくらい分かるっての・・・」

誰もいないのを確認して、サスケは薄っすら赤面したままポツリと呟く。

結局二人の行動はお互い照れ隠しだったということは、一部始終を見守っていた幸村だけが知っていた。

「クスッ。まだまだ青いなぁ二人ともvv」

















「・・・そう言やほたるのヤツ、やけに帰り遅くねぇか?」

ほたると辰伶が抜けた後もそれぞれ盛り上がっていたが、

辰伶を運ぶだけにしては余りにも長すぎる時間を空けていたほたるに気付いた梵天丸が

隣にいた灯に半分酔いを含んだ声で話しかける。

「ん〜?あら、そう言えばそうね。」

「もう軽く30分は経ってますよ。ったくあの馬鹿は何処をほっつき歩いてるのやら・・・」

近くにいたアキラが空を見上げて言った。太陽の傾きで時間を計算したようだ。

「ほたるはんのことやから、どっかで道にでも迷ってるんちゃう?」

「・・・ありえそうで怖いですね・・・もう少しマシな冗談言えないんですか。」

「本気やねんけど・・・」

何故かアキラに指摘されて、半分疲れたように紅虎が答える。

「ますます手に負えませんね。」

「まあまあ。もっと納得のいく考えがあるよ。」

「幸村さん・・・それって何ですか?」

いきなり横から現れた幸村に、多少驚いたがアキラはそれを表に出すことなく尋ねる。

「ふふっ。皆よく考えてみてよ。ほたるさん、辰伶さんと二人っきりになった途端コレだよ?」

幸村の一言に、大概の者の酔いが一気に冷める。

「あ、もしかして・・・やっぱり?んもうっ!ほたるってばっvv」

「おいおい、こんな真昼間からかよ?お盛んなこって。」

「マジかよ。そんな不埒な奴に育てた覚えはないけどなぁ」

酔いが冷めたメンバーの話はどんどん膨らんでいく。

「まず、貴方に育てられたという時点でほたるは普通じゃないですけどね。」

アキラはハッと馬鹿にしたように遊庵の言葉に繋げる。

「・・・・・・そりぁどう言う意味だよ?」

「そのまんまの意味ですけど?」

「アキラ・・・あんさん、ますます性格悪くなってへんか?」

ケロリと言い放つアキラに、紅虎は呆れたように呟く。

「そうですか?気の所為でしょう。」

そういうアキラの足元には随分軽くなった酒瓶が転がっていた。


・・・・・・酔ってる!確実にこの人酔ってるやんっ!!


アキラが酔うと、毒舌に更に拍車がかかるということを知った紅虎だった。





「ねーぇ。ほたるの様子、見に行かない?」

ほたると辰伶の話で持ちきりだった皆に灯がフッと提案する。その目は好奇心で溢れかえっていた。

「いいね、それ。僕も賛成――」

「おっしゃ、乗った!!」

「オレも行くぜ。元弟子のことだしよ。」

灯の提案に皆二つ返事でOKを出す。

「ちょ、ちょっと待ってぇなっ!まだそうと決まったわけじゃ・・・アキラからもなんか言ったってや!」

紅虎はこの中でも常識人の部類に入るアキラに助けを求める。

「何を言ってるんです?ほたるの弱みを握るチャンスなんですよ?私も同行させて貰いますよ」

・・・アカンっ。完っ璧に酔ってる・・・

いつもとは別人のアキラに紅虎は頭を抱えた。


「そうそう。それに、もしかしたら本当に道に迷ってるだけかもしれないしね?」

「それじゃあ助けないといけなしさvv」

まるでそちらが本来の目的だと言わんばかりに楽しそうに話す面々に、頭痛がする。

いつもなら悪ふざけするのは自分の方なのに、今日はそうも言ってられない。

色々あって酒も殆ど飲んでいないので、嫌でも理性が先に働いてしまう。

「・・・なら、わいも行く。」

「あれ、トラさんも見たいの?」

「ちゃうわっ!あの二人が心配やからに決まってるやろ!」

ほたるはまぁ大丈夫だろうとは思うが、辰伶の方が特に心配だった。

特にこの酔っ払いメンバーが何をしでかすかなんて、分かったもんじゃない。

「もう。それならそうと早く言えばいいのに――照れちゃってvv」

「だからちゃうってゆーてるやろっ」

「じゃあ早速行こうか。」

「「お――」」

「わいは心配なだけやからなっ!」

色々なことを胸にほたると辰伶が消えていった方に一行は足を向ける。




「おいっ。皆何処に・・・!?」

「サスケ君はだーめ。私達とここで待ってましょ?」

「猿飛、お前はまだ知る必要もない」

皆を慌てて追いかけようとしたサスケは、両側から後ろに引っ張られた。

「ゆや姉ちゃん・・・真尋・・・」

「ハッ。物好きな奴らのことなんざ放っとけ」

「狂・・・だからってあんなに行かなくても・・・」

サスケの呟きに狂が答える筈もなく、頼みの二人の女性はニコニコと笑っているだけだった。

「何なんだよ・・・」












「ん〜確かにこっちのような感じはするんだけど・・・」

「本当に大丈夫なんでしょうね、そのほたるセンサーとやらは。」

灯が先頭に立って懸命にほたる達を探している後ろで、少し酔いの冷めてきたアキラが呆れたように尋ねる。

「もっちろんよvvこっちの方からほたるの匂いがするもの・・・」

「匂い・・・?」

「まぁ匂いって言うか気配っていうか、そんな感じなんでしょうね。」

「ていうか唯のカンじゃないのか?」

「何か言ったかしら遊庵?」

「イエ、何でもありません・・・。」



「ちょっと皆静かに。・・・これ、辰伶さんの声じゃない?」

「「「え・・・」」」

幸村に言われて話していた者も黙り込んで必死に耳をすます。



「・・・いこくっ!こら何を・・・ちょ、やめっ・・・」



確かに辰伶の声に間違いはない。だが、その内容が普通ではない。

「「「・・・・・・」」」

依然黙りこくったままの皆の頭の中に、同じ映像が過ぎる。



「ちょ・・・マジかよ、おい。」

「うっそ。本当に・・・?」

「そ、そんな訳は・・・」

「こんな所で・・・」

半分冗談だった想像が形になりつつあって、皆上手く次の言葉が出ない。

そんな皆を他所に、二人の声は途切れながらも聞こえてくる。



「螢・・・っ、止め・・・か者が・・・おい!」

「何?逃げる気?そんなに・・・・・・が怖いの?いつも・・・ってることじゃない」

「・・・めろ・・・こっち・・・来るなっ」

「いくら・・・ってもオレに・・・勝てないって知ってるくせに・・・」

「ってこら・・・っ入れ・・な!」




「って、アカーン!!こんなところで何やってんのや二人と・・・」

「あ、こらバカトラっ」

「何してんだ!」

最後の辰伶の恐らく“入れるな”と予想がつく言葉を聞いた途端、

我に返った紅虎は慌てて止めに入ったのだが・・・


「・・・・・・あれ?」

微妙なところで言葉を切らして、目の前を凝視している。

「ど、どうしたの?」

「・・・寝てはるわ・・・」

「「・・・はぁ?」」

力なく答えた紅虎に一同は声を揃えて聞き返す。

「だから、二人揃って気持ち良さそうに寝てはるわ・・・。」

ムカつくことに・・・と最後に付け足しておく。

「え、嘘・・・」

「そんな訳・・・」

紅虎の言っていることが納得いかない面々はぞろぞろと木の隙間から出てくる。

そこには、仲良く肩を並べてグーグーと寝こけている全く似てない異母兄弟の姿が。

ただ普通じゃないのは・・・


「ちょっと辰伶待っててば。まだ勝負ついてないでしょ?」(←寝言)

「ええい、螢惑!いい加減にせんかっ。人参は食えんと言っているだろう!!オレの皿に入れるな!」(←寝言)


その寝言の大きさだった。二人とも普通に話すのと余り変わらない音量で喋っているのだ。

しかもその内容はかなりの低レベルである。

固まっていた面々が訳もない怒りに手をフルフルと振るわせる。


普段全く似てない兄弟なのに、どうしてこう余計なところが似るんだよっ!!

と二人纏めて蹴り飛ばしてやりたいところだが、余りにも幸せそうに寝ているのでその気も失せる。



そっと灯が寝ている二人に近付く。

「・・・クスッ。ねぇ見てよこの二人。ほら、鼻筋の辺りがそっくりvv」

ぷにっと二人の鼻を指先で押しつぶしながら灯が言う。

「おおーホントだなぁ。まぁーったく似てねぇ兄弟かと思いきや。」

「寝顔はホントに良く似てるね。辰伶さん、いつも眉間に皺寄せすぎなんだよ。美人なのに勿体ないよねぇ」

「それ辰伶に言うとブチ切れそうじゃねぇ?」

「えー。ホントのことなんだけどなぁ。」

ははは・・・とほのぼのした雰囲気が周りを包む。



「なーんか、この二人捕まえて変なこと考えるのが馬鹿らしくなってきたわ」

「ほんとになぁ。こんなアホ面されたら、怒るに怒れねぇしよ?ほたるの奴、こんなに表情緩まってるしよ」

梵天丸が軽くほたるの頭を叩いて言う。

「ま、この二人はほのぼの担当でいいじゃね?」

「そうだよね」

「・・・・・・帰りましょうか」

「そうしようぜ。あーまだ酒残ってるかなー。」

「なんかドッと疲れたわ。帰ったら絶対飲んで騒いだる!」

体は疲れたが、気分的に二人の寝顔に癒された一行は悪態を付きながらもどこか幸せそうな顔をしていた。



花より寝顔。ってか―――?



皆が去って行った後、残された二人の顔には笑みが零れていたとか。







END









あとがき 『花見☆パニック』シリーズが、やーっと終わりました。(ってまだ番外編あるけどさ・・・) ネタ書いてる紙がなくなった時はどうしようかと思ったのですが、何とか終わらせることが出来ました。 最初と予定は変わりましたが、初めて連載物の最後を迎えることが出来ました。 初めての快挙です!自分に拍手を送りたいです・・・。 えっと、内容の方なんですが・・・やっぱりなんか紅虎が出張ってる・・・。 前半やけに虎サス虎って感じでしたね。こんな風になるはずじゃなかったんですが・・・ 幸村さんがサスケに抱き着こうとする理由を綺麗さっぱり忘れてしまって、こうなった訳です。 そしてアキラの酔うシーンも最初の予定ではありませんでした。 紅虎と同じく正常な方だったのですが、打ってる途中で急に壊したくなってこうなりました。 アキラは酔っても素直になるとかじゃなくて、更に拍車をかけて毒舌になるんですよ(ある意味素直?) そして最後は辰伶と一緒で爆睡すると思うんです。私的にゆんゆんとアキラの会話が書けて満足vv そしてほたると辰伶、今回ずっと寝っぱなしですね。 前回の続きを覚えていらっしゃるのなら、かなり気になる展開で終わったと思うのですが、 実は何にもありません♪(だってコレはオールキャラギャグ小説ですから) 怪しい寝言を呟いてた二人ですが、辰伶はご飯時にほたるに人参を皿に盛られるという夢を、 ほたるは辰伶に死合いを仕掛ける夢を見てました。(アホらし) ていうかこの寝言を書きたくてこのシリーズ始めたんです。やーっと書けましたvv 今回やけに会話が多いですね。これで最後にしようと詰め込み過ぎたからかな・・・(反省) さて、次は番外編。 ここでは話の中で出てきた“あの夜”について書こうと思ってます。 気になるかなぁと思って一応考えてたんですが・・・ もしかしたら1話じゃ終わらないかも?という不安が出て参りました・・・ とっ取り合えず頑張りますっ 感想貰えると嬉しいです。 2007.1.5 白露翠佳