「もがっ・・・、ちょ・・・ぐっもぅ無、理・・・だっ、ん゛―!?」 「そーんなことねぇだろ?ほらひゃんと飲めっへ。」 「ほうよ〜まらまらお酒あるんらからねぇ――。」 辰伶の必死の抵抗も酒が入ってる連中には通用しない。あっさりスルーされる。 そうでなくても、両手両足を押さえられて身動きが取れない状態で、 酒を無理やり飲まされた所為で酔いが回り、本気が出せない。 「ハァ・・・だから、いら・・・んと、言って・・・いるだろうがっ・・・!」 「なぁ・・・もうそろそろやめたったらどうや。」 息を切らして涙目になりながら言う辰伶を見て、さすがにヤバイと判断した紅虎が皆を止めにかかる。 「なぁに言っへんのよ〜まらまらこれからよぉ〜。」 そういう灯も大分酔っているようである。 完璧に呂律が回っていない上に、目が据わっている。 これは本気で辰伶が危ないと思い、紅虎は強行手段に出る。 「あーー!狂はんがゆやはんにピーなことしてはる!!」 「「「何ィィィ!!?」」」 ビッと狂の方を指差してそう叫ぶと、酔っている者たちは、疑うことも知らずにぐるっと振り向く。 その隙に、紅虎は辰伶を引っ張り出す。 「辰伶はんっ!大丈夫かいな!?」 「ん・・・ああ・・・」 辰伶は肯定するが体はぐったりしている。これは酒の所為だけではなさそうだ。 何処か安全な場所で休ませようと辺りを見渡していると、 突然支えていた辰伶の体が重くなって、倒れそうになるのを紅虎は必死で止める。 「辰伶はん!?どないし・・・・・・寝てもーたんか・・・?」 重くなった理由はどうやら辰伶が寝てしまったからのようだ。少し揺さぶってみたが起きそうにない。 「・・・辰伶はんは酔うと寝るタイプなんか・・・。」 酒に弱いと聞いたからてっきりキャラが壊れたりもするものかと思っていたのだが・・・・・・ 「ちがう・・・。辰伶は酔っても大人しくは寝ない・・・。」 それでもここに放っておくと大変危険だと思い、他の所に運ぼうとすると後ろから声をかけられる。 振り向くと、そこには先程の紅虎の言葉に反応しなかったのか、ほたるが一人で立っていた。 「ほたるはん・・・せやかて、こんなにぐっすりと寝てはるし・・・。」 「うん。いつも最初はね・・・。」 「最初・・・?」 ほたるの言っている意味が分からず、紅虎は首をかしげる。 「悪いことは言わない、辰伶から早く離れた方がいいと思うよ?」 「そんなこと言うたかて、このままの辰伶はんほっとかれへんやろ。」 誰に悪戯されるか分からんし・・・と紅虎が続ける。 「お人よし・・・まぁオレは忠告しといたからね。」 そう言ってさっさとその場を去るほたるを、紅虎は頭の中をクエスチョンマークでいっぱいにしながら見る。 「ほたるはん、何であんなこと言うんやろか?辰伶はんを見る限り無害そうやけど・・・ はっ!!もしかしてほたるはん・・・やきもちか?辰伶はんを取られると思ったんかなぁ・・・ 心配せんでもわいは一生ゆやはん一筋やのに・・・。」 何やら一人検討違いなことを言いながら、再び紅虎は寝てしまった辰伶をどうするか考え始めた。 「ん・・・」 そうしていると、いきなり支えていた辰伶の体が軽くなったのを感じて、目を向けて見ると 酔いが回って焦点の定まらない目でこちらをジーっと見ていた。 「辰伶はん!大丈夫かいなっ!?」 「・・・・・・紅虎、か・・・?」 辰伶はしばらくボーっとしていたが、だんだん覚醒して来たのか、ポツリと紅虎の名を呼ぶ。 「そうや!良かったなぁ大事にな・・・のわぁっ!!?」 「紅虎!!」 紅虎が嬉しそうに話していると、いきなり辰伶が紅虎に飛びつく。 「ぬぉっ!?な、なななな・・・どっどないしたんや辰伶はん!?ご乱心か!?」 辰伶のいきなりの行動に、紅虎は体を支えきれず後ろに尻餅をついた。 辺りに響き渡るような大声で紅虎が叫ぶので、周りの注目を一斉に浴びてしまう。 振り向いた皆の見たものは、辰伶に押し倒された状態の紅虎の姿。 「乱心?そんな訳ないだろう?」 そう言いながら顔を上げた辰伶は、気持ち悪いくらいの満面の笑みだった。 見慣れないその笑顔に、紅虎は一瞬怯んでしまう。それでも何とか声を絞り出す。 「し、辰伶はん・・・・・・頼むから離れてくれへんか・・・?」 「断る」 「・・・・・・。」 はっきりとした口調で否定する辰伶を見て、本気で酔っているのか?と真剣に悩む紅虎だがが、 酔っていなければ辰伶がこんなことするはずがない。 どうしたものかと、悩んでいると横から次々と言葉が飛んでくる。 「お、何だ紅虎、辰伶に気に入られてやがるなぁ」 「て言うか暑苦しいですね。この季節に」 「辰伶さんってば、ほたるさんがいるのに浮気?」 「えーじゃあ三角関係!?」 「わー!勝手なこと言うなや!誤解やー!!辰伶はんっほら、離れてくれや〜。」 ほっとくと、あらぬ方向に持っていかれそうになる話を止めようと、必死に辰伶を離そうとする。 「紅虎・・・そんなにオレが嫌なのか・・・?」 「いや・・・嫌とかそんなんやなくてやな・・・」 捨てられた子犬のような目で見られては、紅虎の性格上無理やり・・・というのは気が引けてしまう。 「始まった。辰伶の抱きつき癖・・・。」 「「「抱きつき癖ぇ??」」」 ぼそりと呟いたほたるの言葉に、周りにいた者が反応する。 「うん。辰伶って酔うと手が付けられない程の抱きつき魔になるの。 一度くっ付かれたら暫くは離して貰えないよ?だから離れた方がいいって言ったのに・・・」 「う、うそやん・・・。」 「多分。」 「どっちや・・・。」 相変わらずハッキリとしないほたるの言い方に紅虎は項垂れる。 「・・・なぁケイコク。」 「何?ゆんゆん」 「今の言い方・・・ってことはお前も抱きつかれた経験とかあんのか?」 いい加減その呼び方やめろと呟きながら言った遊庵の台詞に、 周りの者が一斉にほたるを見て、その答えを待つ。特に灯は目をキラキラさせていた。 「うん、まぁ・・・。辰伶がお酒弱いって聞いたから、飲ませたら弱み握れるかなと思って 無理やり飲ませたらそんな風になった・・・。」 皆の視線をもろともせず、ほたるは飄々と紅虎に抱きついたままの辰伶を指差して答える。 「辰伶が酔うと誰かに抱きつくだけかなのか・・・?」 それだけなら、まだマシだと思うのだが・・・そう思いながら遊庵が再び尋ねる。 「ううん、違う。その後が大変。・・・そう言えばオレの時は確か朝まで続いた気がする・・・」 ゲッソリとした様子でほたるが言う。大方、その時の事でも思い出しているのだろう。 「「「朝まで!!??」」」 ほたるの言葉に過剰に反応したのは、勿論のこと灯と幸村、そして今辰伶に抱きつかれている紅虎だ。 「大変ってことは、それは疲れることなのかな?」 「そりゃぁね。でも辰伶の方が疲れたんじゃないかな。息切れするくらいならしなきゃいいのに。」 バカだよね・・・と言うほたるの呟きは誰も聞いていなかった。 朝まで・・・疲れた・・・辰伶の方が?・・・息切れ・・・?? 壊れた機械のように、心の中でほたるから出た言葉たちを繰り返す。 「ねぇほたるさん。それって具体的に言うと・・・?」 「え、まぁ一言で言っちゃうとせっ「それ以上は言わんでええで!!」 幸村の問いにストレートに答えようとするほたるの言葉を紅虎が遮る。 「何で?もう分かったの?」 「分かった!よう分かったで!!だからそれ以上は口に出したらあかん!絶っ対あかんで!! ・・・それよりも誰か辰伶はんを離してくれやぁ〜」 「紅虎・・・・・・グッドラック!!」 半泣きになりながら周りに助けを求めるが、梵天丸がそんな紅虎の肩に手を置き、 もう片方の手の親指をおっ立てて爽やかに言う。 他の者も、哀れむというよりは楽しんでいる。確実に。 「そんな殺生なぁ〜。・・・うわっ!?」 再び泣きに入ろうとすると、強い力で腕を後ろに引かれる。 「・・・何だよ、辰伶寝てんのかよ・・・簡単に外れるじゃねぇか。」 「ジャリ!?」 紅虎が振り返ると、そこには少し怒り気味のサスケが紅虎の腕を掴んだまま立っていた。 「バカトラ、見てて暑苦しいんだよ。ちょっとは努力しろよな。それとオレはもうジャリじゃねぇよ」 「何を言うんとんのや。わいにとってはまだまだケツの青いクソジャリや〜」 ベぇーと舌まで出して言うあたり、紅虎も充分子供だと思われる。 「フン。一人じゃ何も出来ないボンクラが。」 「何やと――!?」 「本当のことだろ?誰のお蔭で天下人になれたと思ってんだよ?」 「それは確かに感謝しとるけどなぁ――!」 昔のように意味のない言い争いが延々と続く。 「・・・・・・二人は一体何の話をしてるのかしら?」 紅虎とサスケの言い争いを横で見ていたゆやが、会話の意味がよく理解出来ずに首を傾げている。 「ゆやちゃん・・・それ本気だったら尊敬するぜ・・・」 「?」 少し酔いが醒めてきた梵天丸が力のない声で言う。 紅虎が徳川秀忠として正式に征夷大将軍となった今でも、ゆやはそのことに全く気付いていない。 今更言うのも・・・ということで誰もわざわざ話さなかったのが原因だろうが、ある意味大物だ。 ふと視線を二人に戻すと取っ組み合いが既に始まっており、 紅虎が大きな瘤を作って“何で勝たれへんのや〜”と嘆いているところだった。 まぁアレが征夷大将軍だなんて言われたところですぐには信じられないだろう・・・ こうなったらいつ気付くのか賭けてみても良いかも知れないな、と 暖かい春の風を肌で改めて感じながら、梵天丸は何となく考えていた。
行事とかテストとか挟んで、前の更新から1ヶ月も経ってしまいましたが やっと続きを更新出来ました。 今回は紅虎がメインですね。いや、今回だけじゃなくて結構よく出てますが・・・ だってあたし、紅虎が大好きですからねvvこんな扱いも愛故にです! うっすら辰虎、サス虎風味になってます。・・・マイナーですか?すいません。 でもそういう風に思わなかったら×じゃなくて+に見えませんか? 原作でゆやちゃんはいつ紅虎の正体に気が付くのか・・・と思ったらこんなの出来ました。 ていうか思ったんですが、辰伶は紅虎の正体知ってるんですかね? そこのところが凄い微妙です。取り合えず漫画では紅虎と言っていたので今回は紅虎と呼ばせてます。 ていうか徳川秀忠って呼んだらミゲイラ(アニメオリジナルキャラ)と被るなぁ・・・ 2006.7.8 白露翠佳
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