「・・・・・・・・・・・」

皆の様子に、明らかに辰伶の周りのオーラがどす黒くなっていく。


「・・・・・・何か、みんな分かっちゃった?」

「熒惑・・・貴様の耳はちゃんと機能しているのか!?明らかに誤解しているではないかこの馬鹿者が!!」

ゴンッと痛々しい音と共に辰伶がほたるを殴りつける。

「痛い・・・何でオレが打たれなきゃいけないの?」

「貴様があんな言い方するからだろう!!」

しれっとしている螢惑に対して、辰伶はブチ切れ寸前だ。





「はいはーい♪痴話喧嘩はやめてねvv」

二人の間に入ってきたのは言うまでもなく幸村だ。

さっきは少し離れた場所にいたサスケの横で話していたかと思うと、もうこんなところに来ている。




「これのどこが痴話喧嘩なんだ!!螢惑も何か言ってやれ!!」

「痴話喧嘩って・・・?」


・・・・・・

どこまでもマイペースな弟に辰伶は頭痛を覚える。





「ま、それは良いとして、辰伶さん早く舞やってよvv」

「・・・・・・言われなくとも分かっている・・・」


これ以上張り合いを続けてもこっちが疲れるだけだと判断し、皆から少し離れて渋々構えを取る。

辰伶にしては賢明な判断である。気付くのが遅過ぎだが。






「あ、辰伶さんそこじゃないよー。こっちこっち!ここでやって?」

幸村が手招きしたそこはちょうど桜並木の、一ヶ所だけ木と木の間が大きく開いた場所。

そして、他の所よりも若干地面が高くなっている。まるで、ここで舞ってくれと言わんばかりの場所だ。




辰伶が渋々そこに向かうと、スッと上から手が伸びてきた。

驚いて顔を上げると、少し高い位置から幸村がニッコリ笑って辰伶に手を差し伸べている。



「・・・・・・?」

辰伶はどうすれば良いのか分からず、その場で立ち止まる。

その行動に、まったくこの人は・・・と内心苦笑しながら幸村が助言する。


「辰伶さん、僕の手を取ってくれる?」

「??・・・こうか?」

おずおずと自分の手に重ねてきた手を、グイっと引っ張って自分の方に寄せる。

「なっ!?」

いきなり引っ張られたため、少しだけ辰伶がよろけるがちゃんと幸村が支える。







「・・・何のつもりだ・・・・・・」

「何のつもりって、辰伶さんを女性として扱ってみただけだよ?」

「オレはおと・・・」

何回言ったか分からない同じ言葉を発しようとした辰伶の口に人差し指を当てて阻止する。


「知ってるよ?だけど本当に綺麗だよね〜。漢にしとくのが勿体ないくらいだよvv」


その言葉で、辰伶の背筋にゾワっと悪寒が走る。

コイツはそういう系の輩なのか?と驚きやら何やらが混じった目で、見つめてくる幸村を見る。

















「・・・はぁ、まぁ何と言いますか・・・・・・」

「絵になりはるなぁ〜・・・・・・」

「「「うんうん。」」」

二人の様子を遠巻きに見ていたアキラと紅虎が続けて言った言葉に、聞いていた者全員で頷く。



幸村の歳は大分いっている筈なのだが、見た目は若い頃と殆ど変わらず美しいまま。

辰伶も壬生一族なので歳はとらず、もともと女とも思える容姿の上に女物に着物を着せられているのだ。

傍から見ると普通に男女のカップルに見える。というかそうとしか思えない。













「螢惑〜どうすんだ?辰伶取られるぜ?」

二人の様子を見ていた遊庵がからかい口調で近くにいた螢惑に声をかける。


「・・・・・・ん?何の話?」

「・・・お前なぁ・・・」

役目を終えたほたるは桜の木の下にいる虫と戯れている真最中で、全く見ていなかった。


「ほら、アレだ、ア・レ!」

遊庵が指差した方向を見たほたるは珍しく驚きの表情を浮かべる。

おっこれは・・・と皆が思ったが、それも一瞬だけですぐにいつものポーカーフェイスに戻る。




「ユッキーと・・・辰伶?何やってんの、あんな所で。」

辰伶のところで止まったのは一瞬誰だか分からなくなったのだろう。

本気で見ていなかったのか、不思議そうに尋ねてくる。



「もういい・・・」

「?」

面白い反応を期待していたのだが、何ともほたるらしいその答えに項垂れながら答える。





















「幸村・・・」

「何かな?辰伶さん?」


さっきから至近距離で話しているにも関わらず、二人の声は淡々としている。

だが、辰伶にしてみればニコニコとしている幸村が鬱陶しいことこの上なくて・・・


「さっさと手を放さんか!!」

いまだに握られたままの右手を思いっきり振りほどく。


「何だー辰伶さん、照れてるの?まぁ僕はそういう強情な女性も好きなんだけどね?」

「いつまでも人を女扱いするな!・・・・・・っ!?貴っ様ぁ!!からかうのもいい加減にしろ!!」


幸村に引かれて上がったとは言え、まだ幸村の方が高い位置にいる。

見上げる感じになっていた辰伶の顎を掴み、腰の辺りに手を添えたときには、

辰伶の手に舞曲水が握られ、それが幸村の喉元に当てられていた。


男がそんなことされたって嬉しい筈がなく、ましてやトキメクなんて持っての他。

というかその前に、男に対してやりたいと思う方がどうかしている・・・と辰伶は考える。(あくまで辰伶の意見)





「アハハ〜辰伶さんってば冗談が通じないなぁ〜vv」

辰伶に対して両の手を挙げつつも、幸村からは全く反省の色が見えない。

それどころか、いたずらに成功した子供のようにケラケラと笑っている。


「冗談で片付けるな――!!」

「あれ?それじゃあ本当にして欲しかったの?」

「そんなわけあるかっ!!」


・・・・・・そうやって一々面白い反応するから遊ばれてるんだろ――?

賢い者はとっくにそのことに気付いていた。

だが、当の本人は全く気付く気配がない。哀れ辰伶、きっとこれからも幸村に遊ばれるであろう――




ご愁傷様。何人かが心の中で合掌する。




「ったく、お前がオレに舞をやれと言ってきたんだろうが・・・」

「そうそう舞だよ!じゃあ僕も下がろうかな。」

「もう二度と近寄るな!!」

辰伶を一人残して、狂たちのもとに行く幸村に一発怒鳴り返した。




叫び過ぎた所為か、辰伶の息は大分上がっていた。ぜぇぜぇと肩で息をしている。


「あいつ、本当にあんなんで舞えんのかよ・・・幸村なんかに構うから・・・。あいつぜってぇ酔ってるぜ?」

呆れた様子でサスケが呟く。

「まぁ、アレが辰伶はんのええとこでもあるけどな・・・。」


単純バカで騙されやすい・・・その上相手に一度心を開くと疑うことを知らない。

それが彼の長所でもあり短所でもある。


「・・・そうだね。」

紅虎の言葉に返事をしたのは、話を聞いていないと思っていたほたる。

何やかんや言ってもやっぱり互いのことを認め合っている二人だと思う。












「・・・・・・このオレを舐めるなよ?」

サスケの話しか聞いていなかったのか、辰伶は挑戦的な目をこちらに向けていた。




そしてすぐ構えに移ると、辰伶の息がだんだん整っていくのが分かる。

辰伶の周りの空気が澄み切ったかと思えば、舞が始まった。

もう息の乱れは一切ない。それどころか、あっという間に周りの空気を自分のモノへ変える。

流石は壬生の天才舞師。始まった途端、騒がしかったこの場が一気に静寂に包まれる。

ほぅ・・・っと誰のものか分からない溜息が漏れた。


辰伶の舞はこの季節の為のものなのか、春の陽気な気が肌に伝わってくるような感覚に陥る。

しなやかな動きなのにどこか無邪気さが滲み出ている。

止まることを知らない桜吹雪が更にこの場を引立たせていた。

動きに合わせてコロコロと表情が変わる。悲しそうな顔をしたと思えば、いきなり花のように微笑む。

目が合うと、心臓が心地よく跳ねる。例えるならそう、まるで桜と戯れる天から舞い降りた花の精のような・・・





舞いが終わるまで誰一人として言葉を発しなかった。いや、発せなかったと言った方が正しいのかも知れない。

辰伶の動きに胸を鷲づかみにされ、視線を逸らせない。息をするのも忘れるくらい魅入っていたのだ。

舞というものはこんなにも素晴らしいものなのか・・・

初めて見る者でも素直にそう思うことが出来る。
























最後の動きが終わると、ふぅ・・・っと辰伶が息をつく。

辰伶が軽く息を整えて顔を上げると、思い出したかのように遅れて大きな拍手が起こる。




「すっげーな辰伶!!オレ久々に感動しちまったぜ!」

辰伶の元にすぐに駆け寄った遊庵は、バシバシと見てるだけで痛くなりそうなくらい、

辰伶の背中を叩きながら率直な感想を述べる。



「あ、ありがとうございます・・・」

遊庵の真っ直ぐな言葉に、辰伶は照れ笑いしながら頭を下げる。


それから次々に褒めの言葉が飛び交う。

「凄い綺麗やったで辰伶はん!!」

「悔しいけど、踊っているあんたには敵いそうもないわ。」

「なんか自分が空に浮いてるみたいな間隔だったな。」


たまに激励を受けながら、辰伶は引っ張られるようにして皆の輪に加わり、皆の感想に受け答えしていく。




フッと顔を上げると、幸村が真正面に立っていた。

「見事だったよ。流石だね。」

そう言って軽く微笑む。

辰伶もそれに答えて満足気に一瞬だけ微笑んで見せ、すぐに下へ視線を降ろす。










「それにしても・・・」

暫くして辰伶の周りから人だかりが消えたとき、遊庵が声をかける。


「はい?」

「肩もそうだが、お前の足って思ったより白いのな。」

悪気が全く感じられない笑顔で遊庵はそう言うと、辰伶の太もも辺りを軽く叩く。



「・・・・・・え?」

「見えてたぜ?出血大サービスかよ?」

「そ、そんなことは・・・」


青くなったり赤くなったりする辰伶が面白い。遊庵は声を抑えることもせずに笑った。

「アハハ、冗談だって!だけど、それが女物だってこと忘れんなよな?」

「・・・はい。」

すっかり忘れてしまっていた・・・。肉まんのことも・・・・・・。


今更取ったところでずり落ちてくるだけなので、取り敢えずはそのままにしておく。

それに、自分が元々着ていた服は何処にあるか良く分からない。無事なことを祈る。














「辰伶さ―ん!一緒に飲もうよvv」

既にでき上がりつつある幸村が辰伶に絡んでくる。


「だからオレは酒は飲まんと・・・」

「辰伶ぇ〜ほんなこと言わるに飲めっへ。ひっく、遠慮はいらねぇからよぉ!」

呂律が回らず、時々しゃっくりを上げながら梵天丸が肩を組んでくる。


「え、遠慮などでは・・・」

「辰伶、お酒に弱いもんねー」

「け、螢惑!?」

ひょいっと梵天丸とは反対側の辰伶の隣からほたるが現れる。


その時の言葉を聞き漏らす者はいなかった。




“辰伶は酒に弱い”




・・・・・・・・・ほほう・・・と誰とはなしに企みが浮かんでくる。

あの辰伶を酔わせたらどうなるのか、・・・とっても気になる。









「「「辰伶・・・」」」

「・・・何だ?」

「「「「「飲め―――!!」」」」」

「なっ・・・んぐぅっ◎※△Ω*☆#!!?」


何も言わずとも皆の意見は一致して、死合いの時でさえ見せないような団結力を見せて

無理やり辰伶の口に酒を注ぎこんでいく。



「辰伶、言葉になってないよ?それに、辰伶にはお酒飲まさない方が良いと思うんだけど・・・」



ほたるの静かな呟きは、もはや皆の耳に入っていなかった。

















花見シリーズ第3段です。 ほたるの天然ボケ度が原作より大分上がってます。偽者ですよコレ! いや、それ言うと皆偽者のような気がしますが。 紅虎がやけに可愛いと言われましたからね・・・。だってあたしは紅虎受け派なんだもん(聞いてないし) それと、これはあくまでオールキャラギャグ小説なのでCPはありませんが、 如何せん、あたしが好きなんで深読みしていただけると、ほた辰前提の辰伶総受け小説にも見えます。 ていうか今回のは幸辰にしか見えない・・・ゆん辰にも見える。・・・だって好きだしねvv この小説、書くのがすっごく楽しいんですvvこういうノリが大好きvv こんな書いてる方が一番楽しい話ですが、後半分ほどお付き合いいただけると嬉しいです。 次はいよいよ辰伶が酔いますよvv(煽るなよ) 2006.5.29 白露翠佳