蕾だった桜が一つ残らず開花し、世界を彩る季節。 少し前までは上着なしでは出歩けなかったことがまるで嘘のように暖かい日差しが降り注ぎ 様々な自然から、もう春が来たのだということが伝わって来た。 特に今日は、気を抜くとあっという間に眠りの世界に引きずり込まれそうな穏やかな風が吹いている。 そんな春のある日のこと――― 「・・・どういう風の吹き回しだ・・・・・・」 部屋で読書をしているところに訪ねて来た漢に対して、辰伶は少々不機嫌気味な声で問う。 「吹き回しも何も、皆で一緒に花見をしましょうって言ってるだけじゃない、辰伶さん?」 酒を片手に辰伶を花見に誘いに来た漢――真田幸村は軽い口調で先程述べたことを再び口にした。 「・・・・・・断る。オレは忙しいんだ。」 そう言って部屋に戻ろうとした辰伶の腕を幸村がガシッと掴む。 「なっ・・・は、放せ!」 振り払おうとしたが腕を握る力は思ったより強くて、簡単に振り払えなかった。 「そっかぁーvv辰伶さん、そんなにお花見したいんだー良かったな誘いに来てvv さぁ、早く行こう!もう皆場所取りして僕達を待ってるんだよ?待たせちゃ悪いからね」 幸村は抵抗する辰伶を半ば強引に、ズルズルと引きずるように引っ張っていく。 「だから行かんと言っているだろうが!放せ!!」 「ん?お酒のことなら心配しなくても大丈夫だよ〜?狂さんが沢山仕入れてきてくれたからねvv」 「オレは酒は飲まん。ってそんなことはどうでもいい、さっさと放さんか!」 いまだに自分の後ろでバタバタともがく辰伶の話は思いっきり無視し、 幸村は勝手に自分のペースに持っていく。恐るべし真田家の当主。 「アハハ〜辰伶さん、短気は損気だよ?」 「黙れ!!」 言ってる傍から喚き散らす辰伶に、幸村は声を抑えることもなく笑う。 辰伶の腕を掴む手の力は緩めずに。 花見☆パニック 「それにしてもおっそいな〜幸村はん。用事って何やったんやろ?」 「ホントですね。」 「・・・・・・」 壬生での決着がついて、仲間が全員揃ってから初めての春、 闘いが全て終わった時、それを祝うかのように壬生で初めての桜が芽を出し始めた。 その桜の成長はとても速く、あっという間に花をつけて壬生全土に広がっていった。 それを見た幸村の案で、その中でも特に見晴らしの良い場所で花見をしようということになり、 散らばっていた仲間が集まった。狂や四聖天は勿論のこと、真田十勇士も庵家の皆も勢揃いだ。 そして、場所取りをして(と言っても他に誰もいないのだが) さぁ今から始めようと乾杯の準備にうつった時に、いきなり幸村が用事があるからと抜けてしまった。 そのまま始めても良かったが、主催者がいないのでは・・・と 皆、酒の入った入れ物を手に幸村の帰りを待っていた。 だが、あまりにも帰りの遅い幸村を不思議に思い、紅虎がポツリと呟いた言葉にアキラも同意する。 「ねーもう始めちゃわない?」 「だな。これ以上待ってられねぇしよ。」 「お腹空いた・・・」 待つに耐えかねた四聖天の面々が言うと、周りの皆も賛成の声をあげる。 「幸村様をほったらかして始めることなどできん!」 「あっそ。じゃあ待ってたら?あたしたちは始めとくから。ほら皆、かんぱ〜いvv」 「「「かんぱ〜い!!」」」 反論する才蔵ほか十勇士達をほったらかして、灯の掛け声で花見と言う名の飲み会がスタートする。 「なんやクソジャリ、さっきからずっと黙っとるけど腹でも痛いんか?」 皆と騒いでいた紅虎だが、始まってから隅のほうでずっと黙っていた真田十勇士が一人、 猿飛サスケの方に近付いて声をかける。 普段なら気にも留めないが、幸村を待っているという雰囲気ではなかった為、気になったのだ。 「・・・・・・」 「ジャリ?」 声をかけても黙り込んだままのサスケを不思議そうに見る。 皆の方を向いては俯いて何かを考えている様子だ。 「辰伶・・・」 「・・・・・・は?」 サスケの呟いた意外な言葉に紅虎は間抜けな返事を返す。 「辰伶がいねぇ・・・」 そう言われて辺りを見渡してみると確かにいない。 だが、ここにいた方が逆に不自然のような気もするのだが・・・ 「・・・確かにおらんけど、だから何や?」 「・・・幸村の奴、辰伶を迎えに行ったんじゃねぇのか?」 「・・・・・・何でそうなんねん。」 「ここにいねぇから。」 「・・・・・・」 ここにいないというだけで如何して迎えに行ったと思うのだろうか? 誘っても来なかったのならそれはその人の意思であって、わざわざ迎えに行かなくてもいいのでは?と思う。 それよりもこっちをほったらかして、何処かに遊びに行ってしまったかもしれない。 「・・・・・・言ってる意味が分からんのやけど?」 どう考えたらそういう結論に至るのか分からず、取り敢えずサスケに聞いてみる。 「・・・幸村は仲間を大事にする奴だからな・・・。誰か一人でも欠けんのが嫌なんだよ。 辰伶だって最初は敵同士だったが、最終的にはこっち側についたわけだろ? だったら花見に参加する権利が充分あるって考えたんだろうな・・・ 多分、どんな手を使っても連れてくると思うぜ?もしかしたら脇に抱えてくるかもな。」 「・・・んなアホな・・・」 珍しく笑うサスケに驚きながらも、取り敢えず突っ込んでおく。 と、その時、今ちょうど話題に上がっていた人物が手を振りながら帰って来た。 「あ、みんな〜お待たせ〜vv」 「幸村、遅ぇじゃねぇかよ。どうし・・・」 幸村に気づいた遊庵が酒を持ったまま手を振るが、言葉を途中で切らす。 「んー?あれ、ユッキーじゃん。って、何持ってんの?」 遊庵の後ろからにょきっと首を出したほたるが、幸村が担いでいるモノを指差して言った。 それはとても見覚えのある青い塊で・・・ 「・・・辰伶?」 「そうだよvv」 幸村が肩に担いでいたのは紛れもなく人・・・というか辰伶だった。それよりも・・・ 「何で気絶してんの?」 そう、担がれていた辰伶はくたっとなっていて、明らかに気絶している。 「あぁ、連れてくる時にあんまり暴れるからちょっと鳩尾に一発vv」 幸村は屈託のない笑顔で、恐ろしいことをサラッと言ってのける。 「ほ、ホンマに連れてきよった・・・しかもめっちゃ強引に。」 まさか本当に、言葉通りどんな手を使っても連れてくるとは思わなかった。 紅虎の呟きにサスケは勝ち誇ったような声で答える。 「だから言っただろ?」 「自信満々で言うなや!・・・辰伶はん、大丈夫かいな・・・」 「大丈夫だろあれくらい。」 「なんや心配やから見に行って来るわ。」 そう言うと紅虎は皆のもとへ小走りで行く。 「・・・心配性だな、あいつも・・・」 「おい辰伶、大丈夫かよ・・・?」 「大丈夫だってvv軽くしといたから。」 だったら何で気絶してんだよ・・・ 幸村の言葉に周りにいた者が揃って、声には出さず心の中で突っ込む。 元五曜星である辰伶を、いともあっさりと気絶させてしまったこの漢に楯突いたら 命がいくつあっても足りないと判断したからだ。 「しんれ〜?」 皆がそうやって騒いでいる間、ほたるは一人気絶したままの異母兄をその辺にあった桜の木の枝でつつく。 「ほたるはん・・・あんさんは一体自分の兄貴を何や思ってはんのや?」 ほたるの行動に、今来たばかりの紅虎が呆れてそう言う。 「・・・・・・生真面目バカ?」 「・・・こっちに聞くなや。」 ほたるの答えに紅虎は、この人と喋るとどうも調子狂うわーと呟く。 「ん・・・」 「辰伶はん!?」 僅かだが、辰伶が動いたような気がして紅虎は駆け寄った。 だが、その後は何の反応も示さない。 「本気でやばいんとちゃうの?って、あんさんは何しとんのや・・・?」 「え?嫌がらせ。」 見ると、ほたるは辰伶の口に、傍にあった花形に切り取られた人参を突っ込んでいた。 それも一つとかではなく、あっちこっちから取っては詰め込むという作業を繰り返していたのだ。 それに伴って、辰伶が苦しそうに顔をしかめる。 「ほたるはん、それはやり過ぎやと思うんやけど・・・?」 「いーの。オレの前で寝てるコイツが悪「っ貴様――!何をしている――!!?」 ほたるの言葉を遮ったのはさっきまで気絶していて、皆にされるがままにされていた辰伶だ。 詰め込まれていた人参を吐き出して、耳がキーンとなりそうなくらいのボリュームで怒鳴る。 思ったよりも大丈夫そうである。 「あ、辰伶おはよ。」 「“おはよ”ではないわ!何故貴様がここにいる?」 それと人参を無理やり口に入れるな!としっかり付け足す。 「何故って皆ここにいるし・・・」 「何ぃっ!?」 ほたるに言われて辺りを見渡してみると、本当に皆ここにいた。 戦いの中で知り合った者たちが一人残らず。 「あ、辰伶さーん。起きたの?」 声をかけられて振り向くと、自分を連れ出した張本人の幸村が手を振っていた。 もう酒が回ってきたのか、その頬には赤みが差している。 「幸村・・・貴様、よくも―!」 「はぁい、ストップストップvv」 幸村は切り掛ろうとする辰伶の間合いに素早く入り込む。 流石は腐っても戦国大名。酒が入っていても速さのキレは落ちていない。 頭に血が上っていた辰伶は幸村の速さに付いていけず、 気づいたときには、何かを叫ぼうとしていた唇を手で抑えられていた。 「!!?」 「少し落ち着こうか。」 その言葉で少しだけ辰伶は落ち着きを取り戻す。それを確認した幸村がゆっくり手を放す。 「・・・何のつもりだ・・・。」 辰伶は落ち着いてはいるが、今にも挑みかかってきそうな声とオーラだった。 「やだなーそんな睨まないでよ。僕は唯、皆揃って花見がしたかっただけなんだからさvv」 「だからと言ってこんな強引に・・・!!」 「ほら、そうカッカしないで。何もかも忘れて飲み明かそうよvv」 「だからオレは酒は飲まんと言っているだろう・・・」 疲れたように答える辰伶に対して、幸村は何だかとても嬉しそう・・・ と言うより、何か企んでそうな微笑を浮かべる。 その様子に近くにいた紅虎は冷や汗を流す。 絶対なんか考えてる・・・!! だが辰伶は全然気が付いていないみたいだ。 「あ、そう?飲まないの?」 「・・・だからさっきからそう言ってるだろうが」 意外とあっさり引いた幸村を不審に思いつつも、そう返す。 「飲まないんだ・・・じゃあさ、舞やってよvv得意でしょ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」 たっぷりと時間をおいてもまだ何を言われたか理解できず、似合わない声を出してしまう。 「だから、舞だよvvま・い☆一回見てみたかったんだよね〜vv飲まないのならいいでしょ?」 「却下だ。誰が貴様らなんぞの為にするか。」 間髪入れず、辰伶は答えた。その返事に幸村は苦笑する。 「そう言うと思ってたよ。・・・実はそんな君にやる気を出して貰おうと、僕からプレゼントがあるんだvv」 「プレゼント・・・だと?」 幸村の言葉に辰伶は怪訝そうな顔をする。 「そうvvコレだよ」 でーんと幸村が指差した先にあるのは、才蔵が大事そうに抱えている、 何処から仕入れてきたのか、華やかな舞台用の着物があった。いや、それはいい。問題は・・・ 「女物ではないか・・・」 それはどう見たってそれは女物の着物。 桜をイメージしたと思われるピンクと白の爽やかなデザインだった。 「あれぇ?そうなの?ごめんね、気づかなかったよ。絶対辰伶さんに似合うと思ったんだけどなぁvv」 謀ったな・・・そこにいる誰もがそう確信した。 「ふざけるな!!誰がこんなものを着るか!」 「そう言わないで、これ着て舞やってよ〜」 「こんなものを着なくても出来るわ!」 「あ、やってくれるんだvv」 「なっ、違っ・・・」 辰伶は見事に幸村に言いくるめられる。 簡単に引っ掛かってくれたことに幸村は黒い微笑を浮かべ、パチンと指を鳴らす。 すると灯、梵天丸がガシッと辰伶を後ろから羽交い絞めにする。 「なっ、何だ貴様らは!!」 「僕が呼んだ助っ人達だよvvやっぱり舞いをするからにはそれなりの格好じゃないとねvv」 「誰もやるなどとは言ってないだろう!」 「さ、二人とも行こうかvv」 いつもながら綺麗に無視をして歩き出す。 「幸村、このカシは高かいぜ?後で飯奢れよな。」 「後で絶対、狂の秘密教えてよねvv」 「勿論だよvv」 「放せ――!!」 流石の辰伶も四聖天2人にはなす術もなく、簡単に運ばれていく。
アハハ、何だコレ・・・?自分でもよく分からないです。 確か、釵ーちゃんに幸村さんが出てる小説が読みたいと言われて、 じゃあ、あたしの好きな辰伶も出して、それならほたるも出さないとな! どうせならこれを釵ーちゃんの開設祝いにしたれ!わっはっは一石二鳥じゃあ〜参ったか――!! と調子に乗ってたらいつの間にかこんな風に・・・あわわ 話がどんどん膨らんで終わりそうにないので、開設祝いは断念しました。 釵ーちゃん、ごめん。開設祝いの方はまた別に書きます。 出来るだけCP要素減らしてみたんだけど・・・うん。唯の辰伶やられ小説になりそう。 ホントは1ページで終わる筈なのに長くなったので切りました。5,6ページは軽くいきそうです。 つか桜の季節終わったし・・・。これ書いた時は花見シーズンだったんですがね・・・ 2006.5.14 白露翠佳
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